李世先輩は私のことを知り尽くしている?
下駄箱につながっている廊下の端で首元に制汗シートを当てていると、ふと李世先輩が口開く。
「あれ、陽茉ちゃん、朝は洋食だったんだね」
「え、ど、どうしてそれを……?」
もしかしてまた、私の考えていることが分かったの⁉……と、思いきや。
「だってほら、パンくずついてるもん」
李世先輩はくすりと笑いながら、私の制服を指さす。
ひえ、そんな単純なことだったとは……。
私は羞恥心で顔を伏せてしまいたくなるのを抑えながら、手でパンくずをはらう。
「せ、先輩も、今日は時間がなかったんですか?ここ、寝ぐせついてますよ」
恥ずかしさを誤魔化すように、私は先輩のサラサラな髪の先へと手を伸ばす。
ちょこんとあらぬ方向へはねた髪に触れると、李世先輩の体がびくっと震える。
「あっ、ご、ごめんなさい!」
「い、いや、俺こそごめん」
さっきまで楽しそうに私をからかっていた李世先輩の顔が、分かりやすく赤らんでいる。
それは、身を焦がすような夏の熱さのせいなのだろうか。
それとも――。
それから私たちはお互いろくに口を開けないまま、ぎこちなく自分たちのクラスへと向かった。