李世先輩は私のことを知り尽くしている?
ケンカの強いミステリアスなパーカー男子と遭遇してから数日後。


昼休みにお手洗いから教室へ戻ってくると、扉の前でなにやら揉めている?男子がいた。



「菊里先輩、お願いしますっ!オレを弟子にしてください!」

「だから、悪いけどお断りだって言ってるだろ」

「うなずいてもらえるまで、諦めませんから!!」

「え、ええ~……」




眉を下げ、手持ちぶさたに自分の髪をいじる李世先輩は、明らかに困っている。


そんな李世先輩に、ひたすら頭を下げまくっている熱血漢は――。



「「あっ、陽茉(ちゃん)」」



遠巻きに眺めていたつもりだったけど、ぐるりと四つの目が私を捉えた。

男子のうちの一人は一瞬、私から目を逸らしたけど、すぐに視線を戻した。


正直近寄り難かったけど、その真っすぐな目から逃げることは失礼だと私は思った。


意を決して、二人の元へ近づく。




「えと、李世先輩と江真くん……なにをしてるんですか?」


「菊里先輩に弟子入り志願してたんだ」


「で、弟子入り⁉な、なんの?」


「棒高跳び!」




バスケ部の江真くんが、なぜ棒高跳びで弟子入りを……?

江真くんがテキパキと答えてくれるけど、会話のキャッチボールが二往復しても、この状況についてサッパリ分からなかった。


そんな私を見かねてか、李世先輩が横から口をはさむ。




「北条くん、バスケ部を辞めたんだよ。で、陸上部に入部して、こうやってなぜか俺にアタックしてるってワケ」

「え、ええええ、江真くん、バスケ部退部したの⁉」




落ち着いた(というか呆れた)李世先輩の口調とは釣り合わない、衝撃的な事実だった。

江真くん、あんなにバスケが上手だったのに。

次期エースだって期待されていたのに。


私は信じられなくて、つい江真くんを凝視してしまう。



「おう。……一つのけじめにはなるかなって思ってさ」





江真くんの言葉に、どくんと胸が鳴った。


けじめというのは……私と江真くんの間で起こった、あの事件を指しているんだろう。



「もちろん、こんなことで許されるとは思ってないよ。オレが人として最低なことをしたっていう実は何も変わらない。……でもどうか、これだけは伝えさせてほしい」



江真くんは私を見すえて、再び口を開く。




「自然教室で体を張って人を助けようとしていた陽茉の姿を見て、心が動かされたのは確かなんだ。……それが興味以上の特別な感情だって気づくのが遅すぎたけど。オレ、これからは陽茉みたいな人に見合う男になれるように努力したい。だから、応援していてほしい」


「江真くん……」





江真くんのこの思いは、本物だ。

信じたいという私のエゴなのかもしれないけど、それでもいい。


江真くんは今回の出来事を経て、きっと何か良い変化が起きたんだと思う。


だから私にはもう、江真くんに対するほの暗い感情はなかった。



「うん、分かった」



心から、私はうなずくことができた。
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