李世先輩は私のことを知り尽くしている?
「陽茉……本当にありがとう」
「よかったねえ、北条くん。陽茉ちゃんが陽茉ちゃんでいてくれて。それじゃ、俺はこれで……――うわっ!」
さりげなく会話からフェードアウトしようとした李世先輩の腕を、江真くんはガッチリとつかんだ。
「陽茉に認めてもらえて、オレ、ますますやる気が出ました。先輩、オレを弟子にしてくれるまで、この手を離しません!」
「え、いや、こんなところでやる気を出されても困るんだけど……」
どうやら、私が会話に加わる前の状態に戻ってしまったらしい。
「オレ、陽茉だけじゃなくて、菊里先輩のこともリスペクトしてるんです。いち早く『ゲーム』のことに気付いたその洞察力に加え、ピンチにすかさず駆け付けられる行動力。ぜひ近くで学ばせてください!」
キラキラと輝く江真くんの瞳に、私はついクスリと笑う。
デートした時は、一歩前に出てエスコートしてくれるような印象だったけど……こんな風に茶目っ気があるのが本当の江真くんなのかな。
私は今の江真くんの方が好きだ。
……李世先輩は今後しばらく、大変な思いをしそうだけど。
長丁場になることを察した私は、スッと会話から抜けて教室へ戻った。
その後、江真くんによる李世先輩の説得は、予鈴どころか本鈴ギリギリまで続いた――。