李世先輩は私のことを知り尽くしている?
「……は?」
あまりにも唐突な宣告に、俺は目を瞬かせる。
「ごめん、話の流れがよく分からないんだけど。俺と陽茉ちゃんの関係性に興味があるんじゃなかったの?」
「その通り。お二人の行く末に僕は興味をもっています。それはつまりどういうことか。――人の不幸は蜜の味、といいますよね?人間というのは、バッドエンドの方が好きな生き物なんです」
あくまでにこやかに話す古瀬くんに、俺の背筋が凍る。
……おいおいおいおい。
こんなにヤバいやつがすぐそばに潜んでいたなんて。
北条くんがよっぽどかわいく見えるじゃないか。
「もちろんお分かりだと思いますが、人質はあなたのヒミツです。加えて蓮井さんの身も案じるなら、大人しくしておくのがいいと思いますよ」
「……良心が痛んだりしないのか?」
そう俺が尋ねると、古瀬くんはパーカーのフードを目深くかぶる。
「あいにく、僕は菊里先輩のように真っすぐ育ってこなかったので。……ああそれと、このことは他言無用でお願いしますね。では」
言いたいことだけいって、古瀬くんはさっさと立ち去ってしまった。
……あんなぶっ飛んだやつに俺のヒミツを握られたうえに、大胆な脅しまで受けてしまうなんて、とんだ失態だ。
屈したくはないが、俺自身のためにも、陽茉ちゃんのためにも、ここはひとまず従うしかない。
明日から、陽茉ちゃんとろくに話すことができないなんて……。
こんなことになるなら、陽茉ちゃんに俺のことをもっと知りたいと言われたときに、思い切って打ち明けておくべきだった。
でも、どうしてだろう。古瀬くんの最後の言葉が、妙に印象に残っている。
――僕は菊里先輩のように真っすぐ育ってこなかったので。
俺のように、とはどういうことなんだろう?
単に、俺とは違って今まで悪いことをしてきたということだろうか。
それとも――。