李世先輩は私のことを知り尽くしている?
李世先輩の家は、学校から徒歩15分ほどの場所にあった。
私は電車通学だから歩きだけど、自転車なら5分そこそこで着いちゃうかも。
ごく一般的な一軒家で、ちょっとした庭に囲まれている。
……うわあ、扉の前に立つと、めちゃくちゃ緊張する。
ピンポーン。
ドキドキしながらインターフォンを鳴らすと、中から「はーい」と高い声が響いた。
出てきたのは、ショッピングモールで顔を合わせた美人さん――李世先輩のお姉さんだ。
向こうも覚えていたらしく、私を見てにこっと微笑む。
「あら、あの時の子ね。もう、ごめんなさいね、李世が色々振り回しちゃって」
「い、いえっ、私が勝手に勘違いしてしまっただけですから。こちらこそ、お見苦しいところを見せてしまって、すみません」
「いいのいいの、あんな修羅場が実際にあるものなんだって、逆に感動させてもらったから。ふふ、李世を呼んでくるわね」
李世先輩のお姉さんは口元に手を当てて笑うと、パタパタと家の中へ戻っていった。
……李世先輩のお姉さんも、なかなかクセがありそうだなあ。
しばらくすると、ひょっこりとルームウェア姿の李世先輩が現れた。
「えっ……陽茉ちゃん?」
突然の私の来訪に、心底驚いているようだ。
昨日に引き続き、やっぱり具合が悪そう。
「その、先輩、本調子じゃないように見えたので、心配で……」
私がそう言うと、李世先輩のどこか薄暗かった表情が和らいだ。
「そっか。ありがとう、陽茉ちゃん」
「い、いえ。これ、大したものじゃないですけど、差し入れです」
「え、いいの?」
「もちろんです。……先輩のために、梓ちゃんと一緒に買ってきましたから」
先輩はうれしそうにビニール袋に手を伸ばした。
「そうだ、古瀬くんも心配していましたよ。『お大事に』、だそうです」
私がそう言った瞬間、李世先輩の腕の動きがピタリと止まった。
そしてゆっくりと、その手がビニール袋から離れていく。
「……ごめん。やっぱり、受け取れない」
「えっ……ど、どうしてですか⁉」
「……本当にごめん」
李世先輩はそれ以上何も言わずに、戸を閉めてしまった。
……やっぱり、変だ。
李世先輩、どうしちゃったんですか……?
私は受け取ってもらえなかったショックと混乱で、どうやってそこから自分の家に帰ったのか、全く覚えていなかった。