李世先輩は私のことを知り尽くしている?


次の日、私は仕方なく、受け取ってもらえなかった差し入れを学校で配った。


家に置いておいてもよかったけど……なんとなく、昨日のことを思い出してしまいそうで、イヤだったから。



梓ちゃんは私と同じレベルでショックを受けていたし、遠見先輩も「まさか」と面食らっていた。



それから、李世先輩に連絡してみても、返信が来ることなかった。




何かが変わってしまったのは、李世先輩だけじゃなかった。


李世先輩のことを気にしながら学校生活を送っていたら、いつの間にか私のデタラメなウワサが流れていたのだ。





「陽茉ちゃんっ、おめでとう!」



「……えっ、と……?」

「とぼけたってムダなんだから!陽茉ちゃん、彼氏できたんでしょ?」

「え、ええええ⁉」

「え、そうやって聞いたけど、違うの?」





――こういうやり取りが、何度も何度も繰り返されている。



ウワサはけっこう広がっているみたいで、中には李世先輩を狙うライバルがいなくなったって、喜んでいる子もいるらしい……。



突然様子がおかしくなってしまった李世先輩と、突然流れ出したデタラメなウワサ。


この二つに、何か関係はあるの?

李世先輩は、このウワサに関わっているの?




……以前の私だったら、李世先輩を疑ってしまっていたかもしれない。




でも、今は違う。




李世先輩とのたくさんの出来事を通じて、私は知っているんだ。




李世先輩は、絶対に信じられる人だってこと。



私を――人を貶めたりするような人じゃないってことを。



先輩はまだなにか、私に話せていることがあるみたいだけど……そんなことは関係ない。

夏休みまで、あと一週間。




それまでに、なんとか片をつけられないかな。



……実は一人、怪しいと感じている人がいる。


でも、李世先輩が抑え込まれるくらいなんだから、手ぶらでいったって、太刀打ちできない気がする。


考えろ、私。



あの人にだって、なにかヒミツはないかな。




思い出せ。なにか、なにか……——





あっ。




頭の中で、記憶というバラバラなパズルが、ピッタリとハマった。




……あの可能性に、賭けるしかない。


危険な橋を渡ることになるけど……今度は私が、李世先輩を助けるんだ。




私は顔を上げ、ギュッと拳に力をこめた。
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