李世先輩は私のことを知り尽くしている?
「本当はこんなこと、したくないけど……この写真に写ってるの、古瀬くんだよね?」
そう言って、私は古瀬くんに何枚かの写真を手渡した。
黒いぶかぶかのパーカーを身に纏った男の子が、不良たちを蹂躙する様子がおさめられているもの。
私が自然教室明けの頃に出会った、ミステリアスな美青年だ。
当時、私はあれが古瀬くんだと分からなかったけど……背格好や声、私に対する言動を当てはめていって、ようやく気づくことができた。
そこで私は、毎日古瀬くんの後をつけて、カメラで撮影することに成功したんだ。
「フードをかぶっているけど、これなんか、しっかり顔が写ってる。先生の手にこの写真が渡ったら、古瀬くん、困るよね?」
古瀬くんはじっと写真を見つめた後、写真を床に落とし、体を揺らし始めた。
「……あははっ」
「あははははははっ。まさか、蓮井さんにバレるなんてなあ。正直、侮っていたよ」
古瀬くんはひときしり笑うと、髪をぐしゃっと持ち上げた。
写真に写っている凶悪な男の子と同じ、灰色の瞳を携えた美しい容姿が現れた。
「……やっぱり、李世先輩の様子がおかしくなったのは、古瀬くんのせいなの?」
「そう。弱みを握って、蓮井さんと話さないように脅していたんだ」
「そんな……」
古瀬くんがそんなことをする人だったなんて。
そう推理していたわけだけど、いざ目の当たりにすると、やっぱりショックだった。
「ていうか、僕の本性を見破れたのは評価できるけどさ」
古瀬くんは口を動かしながら、ぐっと私に近づいてくる。
壁際に追いつめられると、ドンと私の頭のそばに手をついて、顔を寄せる。
「こんな人気のない場所に呼んで、痛い目を見させられるって、思わなかった?」
古瀬くんは男の子の中でも特別ケンカに強いことは、理解している。
本気で殴り掛かられたら、私に勝ち目はないだろう。
「普通なら、そう思ってた。……でも、古瀬くんは違う」
私の答えに、古瀬くんはキレイな色の瞳を瞬かせる。