李世先輩は私のことを知り尽くしている?
どこからともなく流れるにぎやかな音楽を耳にしながら、私たちはズラリと屋台が並ぶ通路を練り歩く。
私がけっこう食べれるタイプだってことは、幼馴染の和くんはもちろん、李世先輩も知っているから、安心して買い進めることができた。
和くんの彼女さんには、かなーりビビられている気がするけど……。
花火が打ちあがる時間を待ちながら四人でぶらぶらと歩いていると、ベビーカステラの屋台を見つけた。
和くん、昔からあれが大好物だったんだよね。
「和くん――」
振りかえって話しかけようとすると、後ろにいるはずの和くんが、忽然と姿を消していた。
和くんだけじゃなくて、彼女さんの姿も見当たらない。
もしかして、私がはぐれちゃったのかも⁉
慌てて横を見ると、李世先輩がりんご飴の屋台に気をとられていた。
どうやら、2-2に分かれてしまったらしい。
「あの、李世先輩、和くんたちがいません」
「えっ、あっ、ホントだ。困ったな、こんなに人が多くちゃ、探すのも一苦労だ」
「そうですよね。とりあえず、連絡をとってみます」
スマホをバッグから取り出すと、タイミングよく和くんから連絡が入った。
『オレたちのことはお気になさらずに。菊里先輩とのデートを楽しむんだな!』
こ、これって……もしかして、わざとはぐれたってこと⁉
私と李世先輩を、二人きりにするために……。
「どう、返信ありそう?」
「……どうやら、わざとはぐれたみたいです」
「マジか。もしかして今回のお誘いは、橘くんに気を遣われてた感じ?」
「だと思われます……」
「じゃあ、橘くんのご厚意に甘えて、今からは二人きりでデートしようか」
そう言いながらすっと伸ばされた手は、入学式の日のことを想起させる。
あの時は、誰かも分からないままその手を握ってしまったけど――今日は、李世先輩だからこそ、その手をとった。