李世先輩は私のことを知り尽くしている?
二人きりになると、つい話が三日前の出来事に遡ってしまう。
「そういえば、まだ謝れてなかったな。せっかく用意してくれた差し入れをないがしろにして、本当にごめんね」
「いえ、気にしないでください。李世先輩の本意じゃなかったことは、分かっていますから」
「そりゃあね。本当は陽茉ちゃんがお見舞いに来てくれた時、飛びつきたかったもの」
私の目をじっと見つめながら、李世先輩は惜しむように告げる。
「そ、そうだったんですか?」
そんな風には全然見えなかったなあ。
飛びつかれていたら……それはそれで、困っていたかも?
「ええ、困らせちゃってた?」
李世先輩は、まるで私の心の声に反応したかのような答え方をした。
今までもこういうことは何度もあったけど、江真くんのいう『洞察力』の賜物なのかな。
「ううん、違うよ」
「え……」
首を小さく横に振った李世先輩は、無意識なのか指先に力が入る。
李世先輩は一度深呼吸をすると、私の耳元に口を近づけ、雑踏の真ん中でささやく。
「俺がずっと隠して生きてきたのは、人の心が読める力のこと。洞察力でもなんでもなくて、目を合わせるだけで、心の声が聞こえてくるんだ」
人の心が読める……⁉
なるほど。
私の食い意地を初対面で見抜いたのも、自然教室で滑落したときに、私が上手く伝えられなかったのにも関わらず的確に状況を伝えてくれたのも、江真くんたちの企みに気づけたのも。
李世先輩に、普通の人にはない特別な力があるからと考えれば、納得がいく。
私は李世先輩のそんな能力や行動力に、たくさん助けられてきたんだな。
「素敵な力ですね」
そう答えると、李世先輩は笑った。
「そんな風に言ってくれるのは、青矢と陽茉ちゃんくらいだよ」
そして、ふいに横を向いて、片手で目元をおさえた。
「李世先輩?」
「ううん、なんでもない。そろそろ花火が上がる頃だから、川の方へ移動しようか」
「はいっ。あの、教えてくださって、うれしかったです」
古瀬くんはそのことに気づいていたみたいだけど……やっぱり、李世先輩から直接聞くことができてよかった。
「俺も、受け止めてくれて、うれしかった」
私たちは顔を見合わせて、はにかむように笑った。