李世先輩は私のことを知り尽くしている?
河川敷は、花火を心待ちにする大勢の人たちであふれていた。
私たちは腰を下ろさずに、後ろの方から花火を眺めることにした。
「それで、さっきの話の続きなんだけど。俺に非科学的な力があることは確かなんだけど、自分以外のそういう人と出会ったことはないんだ」
「私も多分、李世先輩が初めてだと思います。……あ、でも」
「ん?」
「古瀬くんはなんだか……少し、李世先輩に似ている気がします」
私がそう答えると、李世先輩は目を丸くした。
「実は、俺もそう感じたんだ。……今から言うことは、ただの推測でしかないけど。古瀬くんも、なにか非科学的な力を持っているんじゃないかなって」
「だからこそ、李世先輩の『ヒミツ』に惹かれたのかもしれませんね」
「そうだね。相当ヤバい奴だけど、在学中にどうにか仲良くなれたらいいな」
「私もそう思います」
やがて、おおっと空気が揺れるような歓声があがった。
その直後、パンッと弾けるような音が鳴って、夜空にあざやかな花が咲く。
みんなの視線が、花火にくぎ付けになる。
「さすがこの辺で一番大きい夏祭りなだけあって、豪勢でキレイだね」
それは、李世先輩も同じだった。
「李世先輩」
名前を呼ぶと、先輩の顔がふいにこちらを向く。
その瞬間、私は背伸びして――李世先輩の頬に、キスした。
「自然教室の時の、お返しです」
李世先輩は、呆けたような、何が起こったのか理解できないような表情で、目をぱちくりさせる。
ああ、きっと私もこんな顔をしていたんだろうな。
だんだんと恥ずかしさがせりあがって来るけど、謎の達成感もある。
「……あの時の陽茉ちゃん、こんな気持ちだったんだね」
「そうですよ」
「そっか」
李世先輩は頬に手を当てながらひとしきりはにかんだ後、表情を引き締めた。
「陽茉ちゃん」
「はい」
「俺と……付き合ってくれますか?」
私の心の声が聞こえないようにするためか、視線は外している。
「李世先輩、私を見てくれますか?」
「え?でも……」
「大丈夫ですから」
何も問題はない。
だって、心の声と、これから口に出す言葉は、なんら変わらないから。
李世先輩の瞳と目が合うと、私は改めて口を開いた。
「はい、こちらこそお願いします。これからもっともっと、李世先輩のこと、教えてほしいです」
「……っ!こっちのセリフだよ。心なんて読めても意味がないくらい、俺も陽茉ちゃんのことが知りたい」
そっか。
李世先輩のこと、全然知らないなって、いつも私ばかりが焦っていたけど、李世先輩だって、ずっと私のことを知りたがっていたのかも。
だからこそ、何度もすれ違いが起きたワケで。
これから先、きっと毎日が発見の連続で、楽しいに違いない。
「……陽茉ちゃん」
李世先輩の甘やかな瞳に、私はうなずいた。
ゆっくりと、二人の距離が近づいて――
ドーーーーン!
派手に打ちあがる花火の音をバックに、柔らかで暖かな感触が二人の間を伝った。
私たちは顔を離すと、どちらからともなく笑い合った。