李世先輩は私のことを知り尽くしている?
「おい、この子は次の時間、授業があるだろうが」
李世先輩のお友達が、とがめるように口をはさむ。
「わ、私、窓際の席なので、一応見られると思います」
「じゃあ決まりだね。またね、陽茉ちゃん。俺、がんばるから」
李世先輩はヒラヒラと手を振ると、運動場の方へ歩いていってしまった。
「ったく……」
李世先輩のお友達は、先輩の後ろ姿を目で追うと、ため息をつく。
そして、ふいに私の方を見た。
「『陽茉ちゃん』とやら。一応言っておくが、あいつは分の悪い勝負はしないぞ」
「そ、そうなんですか」
ってことは……李世先輩には、最高記録を更新できる自信があるってこと?
先輩のお友達は口を閉じた後も、私を見定めるようにじっと視線を向けてくる。
「……あの李世が、出会ったばかりの一年を振り回すなんて。珍しいこともあるものだな」
そして、ぼそりとつぶやく。
「あの、今なんて……?」
「……いいや、気にするな。それより、また会うことになりそうだから、名乗っておく。僕の名前は遠見青矢。よろしく」
「わ、私は蓮井陽茉です、よ、よろしくお願いします」
「蓮井か。引き留めて悪かった」
遠見先輩はくるりと背を向けると、何事もなかったように歩き始めた。
落ち着いた雰囲気で、李世先輩とはまた違った性格の人だったなあ。