李世先輩は私のことを知り尽くしている?
そうだよね、気づいていたよね。
それなのに、笑いかけてもくれなかった……。
もやもやしたまま、李世先輩の番になる。
「あっ……!」
ここまでずっと、美しく飛んでいたのに。
明らかにフォームがくずれていて、バーに体がぶつかる。
そして、今日初めてバーを落としてしまった。
「菊里先輩があんなミスするなんて、珍しいな」
和くんの言葉に、ドキッとする。
李世先輩がうまく飛べなかったのは、私が声をかけたから?
どうしよう、邪魔しちゃったのかも……。
汗が出てきて、体が小刻みに震え始める。
そんな私の腕を、和くんがしっかりつかんだ。
「大丈夫。菊里先輩は、どんな状況でも最大のパフォーマンスができるからこそ、有名なんだぜ」
「和くん……ありがとう」
そうだよね。
やってしまったことは、元には戻せない。
今は、李世先輩を信じて、そっと応援し続けよう。