夏空、蝶々結び。
それから――素直さも。
「じゃあ、“ゴン“で」
もちろん、いいとも。
単に呼び名がないと、不便なだけなんだから。
それが本名だろうが源氏名だろうが――そうよ、名無しの権兵衛だって。
「……は? 」
当然の如く、彼は不満を顕にするけれど。
「名前は? 」
再び尋ねると、無言になる。
どうやら、偽名までは考えてこなかったらしい。
「ほら」
それほど隠したいのなら、嘘を吐いても分かりっこないのに。
適当に名乗ることもしないなんて、もしかして根は素直だったりするのだろうか。
「……ああ、もう……いいよ、何でも。その代わり」
――これから、すっげーお世話になりますから。よろしくね、かなえちゃん?
今年の夏は猛暑だ。
誰もが、この暑さが延々続く気がして嫌だったに違いない。
でも、私は――見て見ぬふりをしていた。
暑い暑いと文句を言いながら、その熱を楽しむように。
散々怒ったり嘆いたりしながら、実は心地よかったのだ。
終わりかけの夏に始まった、ゴンとの不思議な同居生活が。
けれど、それを知るのは突然訪れる秋の気配を感じてから――つまり、もう少し後のこと。