夏空、蝶々結び。
イジワル幽霊の荒療治
ファイル、プリントの山、山、山。
隣に幽霊が浮かんいることなんか、もうどうでもいいくらいには途方に暮れる。
まだ全快とはいえない体に鞭打って来てみれば、机の上は他に表現できないほど積み上がっていた。
「クリアデスク」、なんて言葉はどこにいった?
「社外秘文書の取扱いマニュアル」は?
この状態で一枚や二枚をなくしても、文句は言わないでほしい。
それに残念なことに、机の上だけじゃない。
パソコンを立ち上げれば、メールも山ほどきているだろう。
「おはよ。もういいのか? 」
ここでは珍しい心配してくれる声すら、山越しにしか聞けないなんて悲しすぎる。
「すみません。ご迷惑をおかけしました」
上司の登場に慌てて立ち上がる私を苦笑して座らせ、積み上がった仕事に眉を顰めた。
大澤先輩には本当に申し訳ない。
迷惑なんてものは、いつだってきちんとやるタイプの人に掛かるものだ。
「いや、こっちこそ。……ごめん、佐々が出社する前に、少しは片付けておきたかったんだけど」
「そんな……先輩には、自分の仕事があるんですから」
ほらね。
そう首を振っても、彼はますます申し訳なさそうに『こんな時くらいは、手伝ってやりたかったんだけど』なんて言ってくれた。
「ふーん。真面目な好青年タイプ。かなえちゃんって、こういう男が好みなんだ」
幽霊の声なんか聞こえないから。
反応なんかした日には、変人扱いされかねない。
「そういや、アプリでこんなキャラいたよな。あ、もしかして、“普段穏やかなカレがドSに変身!?” みたいなのに萌えるタイプ? 」