夏空、蝶々結び。

手伝ってくれたり、仕事量が減るはずもないけれど。


『仕事早いな。助かる』


どっちにしたって極端に甘え下手な私には、同じこと。
だからそれは、素直じゃない私にとって最高のご褒美だった。

こんなこと言うと、ゴンはまた馬鹿にするだろうか。
もしかしたら、他の女の子だって笑うかもしれない。
それでも男の影などまるでない私にしたら、とても甘美なひとときに違いなかった。

一瞬だけ、目を丸めて。
本当の本当に一瞬だけ、照れたように笑う。
その後は、特に何の言葉もない。


『お疲れさま』


そう言おうか言うまいか、悩んでいるみたいな気がして。私もすぐにその場を離れるのだ。

クスッと笑ったり、にっこり微笑むなんてできない。
こんな気持ちを大澤先輩が気づくよしもないし、それどころか無表情だなと思われているかも。
何にせよ、先輩本人にも、周りにいる他の誰にとっても些末なシーン。

あんまり急いだせいで、ミスをすることもあった。
叱られたり、チクリと言われることもあったっけ。

もはや新人ではない今となっては、それすら懐かしい。
もちろんその時は落ち込んだし、泣きたくもなった。
それでも彼が「嫌な上席」にならなかったのは、誰に対してもどの仕事に対しても、ちゃんと評価してくれるから。
わりと真面目な私は、頑張る甲斐があったのだ。

それに――苦いものの後の甘いものって、すごく楽しみにしてしまう。


(……私って、やっぱり馬鹿? )

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