夏空、蝶々結び。


・・・


……いつの間に眠ったんだろう。
目を擦ると、マスカラが少し指に付いた。

時計を見ると、既に深夜。
そういえば、お腹も空いたような空いていないような。
……というか、空腹と面倒くさがりな性格との戦いだ。
とはいえ、喉の渇きは耐えられない。
のろのろと冷蔵庫へと向かった時――。


「ちゃんと食べなよ」


もう何度目か、私の心を読んだようにゴンが言った。


「薬も飲んでないだろ。かなえちゃんに、凝った料理作れとは言わないけど? インスタントばっかとか、マジでやめたら。太るし」


いつから、そこにいたのか――いや、多分ずっと近くにいたのだろう。
分かっているのに、振り向くことができないでいた。

怯えているのだ。
急にどこからともなく現れた幽霊に、ではなく――ちっとも怖くない幽霊の、的確な指摘を。


「さっさと食べて、薬飲んで、シャワー浴びてさ……今日はもう寝たら」


なのに、聞こえてきたのは全く異なるものだった。
相変わらずつっけんどんで、吐き捨てるような言い方だけれど――どこか柔らかいのは、気のせいなんだろうか。


「……うん」


だから、私も怒れなかった。
今更だけど、恐らくこんなふうに思うのも、今だけかもしれないけれど。

怒るのって、意外とパワーを消耗するのだ。


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