夏空、蝶々結び。



それにしても。


(……雅人さん……)


痛すぎ。

ゲームのイベントスチルを夢で再現した挙げ句、あろうことか大澤先輩を脳内で使うとか。


(謝りようがないけど、申し訳なさすぎる……)


会社に到着するなり、自分のデスクで頭を抱えた。
先輩を名前で呼ぶなんて妄想、意識のあるうちはやったことないはずなのに。
それとも、だからなんだろうか?
現実で抑制していることが、意識を手放した途端暴走を――。


「……さ、佐々? 」


恥ずかしくて、いつしか顔まで覆っていた両手を恐る恐る開く。
そこには夢で甘い台詞を言わせてしまった先輩が、もちろん普段と同じように立っていた。


「お前、無理してないか? 治ってないなら、もう少し休んだ方が……」

「いえっ、そんなんじゃなくて、その……」


先輩で妄想していたのが恥ずかしすぎて、直視できないだけなんです。


「大分良くなったので!! 」


嘘です。
感じの悪い地縛霊にとり憑かれてからというもの、色々と悪化しています。


「……そう? なら、いいけど……。あ、メール見たよ。後でちゃんとチェックするけど、パッと見は大丈夫そう」


ゴンにああ言われて複雑だけれど、やっぱりほっとする。


「ありがたいけど、具合悪い時くらい早く帰れよ」

「大丈夫ですって。それに先輩だって、遅くまで残ってるじゃないですか」


部下の仕事が遅れれば、その分上司も遅くなる訳で。
私と違ってそれが求められるんだろうけれど、だったら尚更、少しでも早く終わらせたい。


「真面目な後輩置いて、帰れないからな。俺のノー残業の為にも、佐々も時々手を抜けよ」


どうしたんだろう。
今日の先輩は、いつになく砕けた口調だ。


「あ、あの」


なのに、この機を逃してはいけない気がして口を開いても、ちっとも言葉になってはくれなかった。

< 26 / 114 >

この作品をシェア

pagetop