夏空、蝶々結び。
それにしても。
(……雅人さん……)
痛すぎ。
ゲームのイベントスチルを夢で再現した挙げ句、あろうことか大澤先輩を脳内で使うとか。
(謝りようがないけど、申し訳なさすぎる……)
会社に到着するなり、自分のデスクで頭を抱えた。
先輩を名前で呼ぶなんて妄想、意識のあるうちはやったことないはずなのに。
それとも、だからなんだろうか?
現実で抑制していることが、意識を手放した途端暴走を――。
「……さ、佐々? 」
恥ずかしくて、いつしか顔まで覆っていた両手を恐る恐る開く。
そこには夢で甘い台詞を言わせてしまった先輩が、もちろん普段と同じように立っていた。
「お前、無理してないか? 治ってないなら、もう少し休んだ方が……」
「いえっ、そんなんじゃなくて、その……」
先輩で妄想していたのが恥ずかしすぎて、直視できないだけなんです。
「大分良くなったので!! 」
嘘です。
感じの悪い地縛霊にとり憑かれてからというもの、色々と悪化しています。
「……そう? なら、いいけど……。あ、メール見たよ。後でちゃんとチェックするけど、パッと見は大丈夫そう」
ゴンにああ言われて複雑だけれど、やっぱりほっとする。
「ありがたいけど、具合悪い時くらい早く帰れよ」
「大丈夫ですって。それに先輩だって、遅くまで残ってるじゃないですか」
部下の仕事が遅れれば、その分上司も遅くなる訳で。
私と違ってそれが求められるんだろうけれど、だったら尚更、少しでも早く終わらせたい。
「真面目な後輩置いて、帰れないからな。俺のノー残業の為にも、佐々も時々手を抜けよ」
どうしたんだろう。
今日の先輩は、いつになく砕けた口調だ。
「あ、あの」
なのに、この機を逃してはいけない気がして口を開いても、ちっとも言葉になってはくれなかった。