夏空、蝶々結び。

「それはいいとして。昨日、机の引き出し開いてたぞ。次やったら、報告するからな」


もどかしく思う間もなく、話が切り替わった。


「す、すみません! 」


(ああ……こんなの、滅多にないのに)


さっさと自分の席に戻る先輩をチラリと見つつ、心の中で溜め息を吐く。


「まったく……せっかく、あっちから話しかけてきたのに」


そんなこと言われても、不意打ちすぎた。
今度は音になりそうな溜め息を堪え、袖机を開けると……。


「え……? 」


何故だか、レモンジュースの瓶がコロコロと転がってきた。
調子が悪いと――たとえば、風邪を引いたりとか――飲みたくなるあれ。
でも、買った覚えもないのに、何で――。


「……昨日、あいつが買ってきたの。かなえちゃん、猛ダッシュで逃げてったけど」


(……あ)


そういえば、先輩のネクタイや足下しか見ないようにしていたけれど。あの時、手に持っていたんだ。


(お礼言わなくちゃ)


チラチラ窺ってみても、大澤先輩の目はパソコンから動こうとはしない。


「せ、せんぱ………」

「おはようございます!! 」


いいところで……とは思ったものの、気がつけば始業前。
カナちゃんが現れたのは、寧ろ遅いんじゃないの、って時間だ。


「それ、ビタミンいっぱいでいいですよね。先輩、いつもコーヒーですから、風邪引いてる時くらいその方がいいかも。あ、でも」


そんなことは気にも留めない彼女は、にっこり笑って言った。


「先輩、知ってます? それ、コラーゲン入りも売ってますよ」

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