夏空、蝶々結び。
・・・
そんな始まりだった一日も終わり、今日は何とか早めに帰宅することができた。
「カナちゃんもなかなかいい性格してるけど、事実だもんな。いくら、かなえちゃんがコラーゲンドリンク飲んでも、歳には敵わないし」
「………別にいいもん」
ほっと一息吐いたとたん、ニヤニヤと蒸し返すゴンにふて腐れながらも言い返した。
コラーゲン入りですって?
そんなもん、今はいらないのだ。
「……で、なにジュースとにらめっこしてるの。可愛いパジャマ着て? 」
お風呂上がり。
冷やしておいたジュースをテーブルに置き、私は正座していた。
「俺の前で、よれよれの部屋着でうろうろするくせに。初めて着るパジャマを見せるのが瓶って。あんた、どんだけなの」
何とでも言うがいい。
せっかくの大澤先輩の気遣いを前に、変な格好をしたくなかったのだ。
「……大丈夫? 頭」
いや、やっぱりムカつく。
大体ね、いくら女の子だといったって、そういつもいつも可愛いルームウェアで部屋にいる訳じゃない……はず。
「ほんと、どうにかしなよ。手遅れになる前に。……それって、あんまり猶予ないんじゃね」
「……したいとは思ってるの……! 」
どうにかしたい。
どうにかしなくちゃ。
そう思い出したのは、どれくらい前だろう。
「思うだけじゃダメだろ。かなえちゃんの場合、ちゃんと気になる男いるんだから。妄想じゃなく、現実で本人に見せなよ。……瓶じゃなくて」
(気になる相手……)
確かに気にはしている。
でも、こんなこと前にはなかった。
ゴンが現れる前は、先輩に好意を抱いていることすら忘れて――ううん、きっと意図的に頭から追いやっていたのだ。
(……あんたのせい)
先輩のことで、ゴンが毎日毎日からかってくるから。
そんなにしょっちゅう名前を出されたら、意識せずにはいられない。
だって、私は自分自身に嘘吐きなだけで、本当は気になって仕方ないのだから。