夏空、蝶々結び。

心ではストンと納得しているくせに、ブツブツ言いながらジュースのキャップを外した。


「……沁みる」

「オッサンかって」


甘みは然程なく、酸っぱさが胸に広がる。
飲み慣れない炭酸が、ちょっとだけ胃をチクチクするような変な感じ。
先輩から不意に貰ったからか、ずっと忘れていたらしい複雑な感情が染み渡るみたい。

まるで、そう――片想いに悩む少女みたいな。


「……オジサン化してるわよ。悪かったわね」

「別に、俺に悪いと思う必要ないけど? ま、でも、そこまで諦めることないだろ。いくら、かなえちゃんでも」


『終わってる』なんて言うくせに、それは否定してくれるのね。
そこで驚く私を呆れ果てたように、ものすごくあからさまに溜息を吐いた。


「お礼にかこつけて、何かしたら? どうせ、本当にお礼言えなかったんだし」

「たとえば? 何か作って持っていく……なんて、いきなりびっくりしない? 」


ただの後輩の立場で、大袈裟なお礼をするのも変だろう。
逆に気を遣わせてしまうだろうし、かと言って手作りのお菓子っていうのも……。


「まーね。特別意識してなければ驚くし、あんまり好きじゃなければ引くかも」


そんな身も蓋もない。
恋する乙女の敵だとは思うけれど、ゴンの言うこともある意味事実なんだろう。
悲しいし、腹は立つけど。

< 29 / 114 >

この作品をシェア

pagetop