夏空、蝶々結び。

「……けど、これは俺の場合。優しい先輩は違うかもしれないだろ。ハナから諦めてるなら、いっそキレイサッパリ振られてから、諦めりゃいいじゃん」

「……仕事やりにくいのは嫌なんだけど」


ゴンに言われるまでもなく、それは言い訳だ。
大澤先輩なら、会社で態度を変えたりしないと思う。
私だって、多分――誰にも気づかれないくらい、無表情で仕事できそうな気がした。

初めから、失恋する恐れをゼロにしてしまいたいだけなのだ。
告白や『好き』を表に出さなければ、恋はなくならない。
淡く淡く胸に留まって、ただ、カタチにならないだけ――私はそれを許していた。
随分、甘いことだ。


「……何か、お菓子でも買ってく」


まだ、急には無理だ。
でも、ほんの少しくらい、危ない橋を渡ってもいいんじゃない?
ちょっとくらい怖いドキドキも、不安になるのも。たまには味わう勇気をだしてみようか。


「そうしたら。ここ、余計な調理器具もないし。つまり、普段やらないんだろ。今更言うまでもなく、かなえちゃんに手作りとかハイリスクすぎ」


だって、今なら独りじゃない。
口は悪いし、初めて会った時の可愛さなんか消え失せている。
でも、何だかんだと話に付き合ってくれる――ゴンがいる。


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