夏空、蝶々結び。
ぶつかり合ってぐちゃぐちゃになったタルトが、家に着いてやっと、私の熱を冷まそうとする。
「あーあ。無駄に走ったりするから。ってか、かなえちゃん元気じゃない? 風邪治ったの」
ゴンに言われたからか、無残なそれを見てしまったからか。
途端に息苦しく、咳き込んでしまった。
「勿体な」
「食べるよ、ちゃんと」
ひとつひとつは小さいし、食べきれるはず。
「また太るな」
「またって何よ。……風邪引いて、あんまり食べられなかったから大丈夫」
体重計なんて悲しいものは、うちにはないから分からないけれども。
「どうにかこうにかって感じだけど、よかったんじゃない」
気を遣ってくれたのだと思う。
でも、先輩は食べてくれたのだ。
「うん。……ゴンのおかげ」
「……なに。気持ち悪いんだけど」
怪訝そうに言われたけれど、へなへなと座り込みながら、私は素直に感謝していた。
ゴンがいなければ、持ち帰るタルトがふたつ増えていた。
たったそれだけの差がどれほど大きいか――想像に難くない。
「世話、焼かせすぎなんだよ」
「……だよね」
嫌味な言い方も、腹が立たない。
それどころかクスッと笑ったのが気に食わないのか、彼はスッと目を細めた。
「ねぇ」
「……うん? 」
睨みつけるような眼差しに身構えると、ゴンが言った。
「俺にもちょーだい」