夏空、蝶々結び。
何と答えていいか分からず、モゴモゴしてしまう。
だって、あげたいのは山々だけれど。
「腹が減ってる訳でも、本当に食える訳でもないけど。……俺にもくれたっていいだろ」
「……うん」
(……そう、だよね)
お腹は空かないし、実際口にできるのでもない。
それでも毎日、毎食食べる私の側で見ているだけだなんて。
「別に、あんたが落ち込む必要ないんだけど。……じゃなくて、一緒に食ってやるって言ってんの。一人で平らげるの、見るに堪えないから」
ゴンはいつだって偉そうだ。でも――。
「かなえちゃんが渡してくれればいい。だから……俺にもちょーだい」
何故か隠そうとする優しさを見つけるのは、いつしか大分簡単になった。
「あ……コーヒー淹れるね! 」
胃がきゅっと締めつけられ、痛い。
私ですらそうなのだから、ゴン自身はもっと複雑で辛いのだろう。
そう思うと、居ても立ってもいられなかった。
「いいよ、一緒ので」
動揺されるのが嫌なのか、不機嫌そうにぞんざいに指差す。
その先には、私がいつも使っているマグカップ。
「え? で、でも……」
「いいって。だから、本当に飲める訳じゃねぇし。なに妄想してんの」
そう言われても、やっぱり戸惑ってしまう。
――同じカップを渡すのを。
「あんた、どんだけ免疫ないんだよ」
お湯が沸く時間も、コーヒーの粉に注がれて湯気が昇るのも、どうして待っていいか分からずにそわそわする。
マグカップがふわふわ浮いた。
びっくりしている間に、ゴンは唇をつけてニヤリと笑う。
「前々から思ってたんだけどさ。一体、いつが最後なわけ? 」
平然とコーヒーを飲みながら、失礼な質問を飛ばす。
「か、関係ないでしょ、そんなの!! 」
ムッとはしたものの、それ以上言い返すことができなかった。
だって――落とさないようにゆっくり返ってきたカップの中は、想像通り、ちっとも減ってはいないから。
「……うまかったよ。あんまり甘くなくて」
なのに、そんなことを言うから。
目の奥がツンとするのを誤魔化すように、私もカップに口づけるのだ。