夏空、蝶々結び。

「普通、面と向かって言う? 」


結構な強がりだ。
こっちは、これから家を出るのだし――何だか出鼻を挫かれる。


「正直な感想なんだから、仕方ないだろ。俺は………」


そんなに似合わないだろうか。
私としては気分転換と――ちょっとした「いつもと違う朝」を迎えたかったのに。
こういうのは気分の問題だから、一度テンション下がると急降下しそう。


「………別に、どうでもいいけど。雅人さんなら、お世辞のひとつやふたつ、サービスしてくれるかもな」

「あのね。お世辞だって決めつけるの、やめてくれない? 」


負けじと言い返しながら、悲しいことにそれすらないかもと思い始めていた。

大澤先輩の場合、チラッと見ただけで仕事を再開しそうだし。


(……普通にこれかな)


もしくは、全く何も気がつかないとか。


(大いに有り得る)


大体、部下が髪型をほんのちょっと変えただけで、いちいち反応するだろうか。


「溜息吐くなって。それ以上、幸せ逃げたらどうすんの」


(……………)


ゴンがわりといい奴なのは分かってきたけれど、その減らず口はどうにかならないものか。


(……ま、いいか。急にしおらしくなられても……)


――どうしていいか、分からないし。


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