夏空、蝶々結び。
厳しい声に思考を遮られ、ポカンと先輩を見上げた。
「二人でやれって言っただろ。それじゃ、ほとんど佐々がやるみたいなもんじゃないか」
渋い顔をされ、慌てて立ち上がる。
「別に、甘やかしてるわけじゃ……」
連帯責任だ。
提示された締切に間に合わなければ、早く終わった方が手伝うしかない。
「お前も、すぐ佐々を頼るな。まず、自分で終わらせる努力をしろ」
「いや、頼んだつもりは……」
面倒そうに、チラと視線が移ろう。
勝手に申し出たのは私だけれど、ちょっとムカつく。
けれどこの時、よりカチンときたのは――……、
「……もうこんな時間だし。手伝います」
何故か、大澤先輩の方だった。
「“こんな時間”なんだから、もう帰る支度していい」
何これ。
「終わってないのに、放置して帰れません」
何で、こんなことになってるの?
「さ、佐々さん。すみません、俺、ちゃんとやるんで……」
周りがあたふたし始めるほど。
「お前な……いい加減にしろ」
先輩の声も、私の仏頂面も酷いのだろう。
イライラした先輩なんて久しぶり――ううん、初めてかもしれない。
怒る時すら落ち着いていて、それはそれで怖かったけれど――こんなふうに、胸をチクチク痛めたりはしなかった。
「締切に間に合わせてくれるのは有難いけど、やってあげるんじゃ他の奴が育たない。間違ったら俺がやり直させるし、せっつきもする。第一、体調も悪いのを無理されたって困………」
「それなら……! 」
しんと静まり返った中、いつになく大澤先輩が喋る。
昔、注意された時だって、一言二言。
延々叱るなんて、されたことなかったのに。
「もっと早く、言ってくれてたら……!! 」
迷惑だって、無意味だって。
そんなことも知らないで、一人ときめいていた私は大馬鹿だ。
「……っ、失礼します……! 」
それどころか、みっともない。
羞恥と後悔で、とてもこの場にいられない。
どうせ、必要ないのだから。