夏空、蝶々結び。

(……瞬き、するんだよね)


場違いなことが頭に浮かんだ。
彼を見つめれば見つめるほど、冗談やからかいの色は見えない。
見つかるのは、真剣さと優しさを帯びた眼差しだけだ。


「嫌でも四六時中一緒だから、目に入って仕方ないんだけどさ」


ぶっきらぼうに言ってくれ、ようやく笑えた。
照れ隠しが可愛かったのと――どうしていいか分からずに、タイミングを見計らっていたのだ。


「たまに大人しくしてると思えば……」


『心配して損した』


そんなことを言いながら、ゴンも少し笑っていた。

なんとも言えない雰囲気だ。
これといって甘さは感じないのに、多分お互い落ち着かない。
いつもと同じ会話をしながら、照れたり拗ねたりしている。


「先輩に頭にくるなんて初めてだな」


帰れと言われたようなものだけれど、逆ギレして出ていけとは言われていない。
あの後、皆やりづらかっただろう。


「だろうね。雅人さんと大喧嘩なんて、今までのかなえちゃんには無理だっただろ。でも……」


改めて言われると、胃が痛い。
明日、どんな顔して出社すればいいのやら。


「よかったじゃん」


何がよかったというの。
それも皮肉かと眉根を寄せて見れば、ゴンは目を合わせないまま続けた。


「他人と喧嘩って、なかなかできないだろ。誰かと衝突するって……それなりに距離が近くないと無理なんだよ。あんまり遠すぎると、ぶつかりようがないんだからさ」


彼はこうして、時折私の奥深くまで入り込んでくる。
以前なら素直に聞くことができず、踏み荒らされた気がしたのだろう。


「だから、よかったな」


明らかに私の表情の変化に気がついているのに、なおもゴンはこちらを見ない。
なのに、そう繰り返したりするのだ。

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