夏空、蝶々結び。
「……別に、一人で行くのが怖いわけじゃねぇからな。あんたの意識がまるでないところに、移動できないだけで」
頬が赤い。
拗ねたように、よく分からない言い訳を何度もするのがおかしかった。
「はいはい」
事実は確かめようがないし、どっちだっていい。
ゴンの手助けができることが、素直に嬉しかった。
そして翌日。
この会社に勤めて初めて、ずる休みをした。
「大丈夫か? ごめん、俺が夜に誘ったりするから……」
欠勤の連絡を入れると、大澤先輩の焦り声がした。
良心の呵責と――少し、甘酸っぱさが胸に広がる。
「い、いえ。私が酔っぱらって、そのまま寝こけちゃったので……」
「……色気ない言い訳」
ゴンに言われるまでもなく既に後悔していたけれど、言ってしまったものはどうしようもない。
「……そ、そうか。お大事に」
おかしな間を置いて、先輩が電話を切る。
私もどうしていいか分からずに「失礼します」を滑り込ませた。
「本当にいいの」
隣の座席にいるゴンが、もう何度目か言った。
会社の人に会わないよう、通勤時間とずらして行動を開始したのだ。
話がついたから、こうして電車に乗っているというのに。