夏空、蝶々結び。
「いいの! 」
昨夜帰ってからも、ゴンはかなり渋っていた。
彼の逢いたい人――そこは否定しなかった――女の子だろうか。
他人に見られるのが、気恥ずかしいのかもしれない。
でも、取り憑いた相手の残留思念がまるでなければ、一人では行動できないというのだから仕方ない。
(そんなの、初めて聞いたけど。どっちにしても、できたら同行したいし)
「大丈夫。到着したら、本当に離れるから」
「それだけじゃないけどな。……それくらいで黙っとけ。マジで不審者だから」
隣に座りかけた乗客が、目を逸らして別の椅子へと移っていく。
ゴンはそう言うけれど、私はあまり気にならなかった。だって、そこはゴンの席だ。
私の隣は、もう埋まっている。
「考えたら、無駄足かもな。約束したわけじゃないし……しようもねぇけど」
電車を降りたところで、ゴンがボソッと漏らした。
とりあえず改札を通り出てみたものの、この先のプランは何もない。
「……ごめん。まだ仕事してるよね? 」
勇み足だっただろうか。
とにかく、ゴンの気が変わらないうちにと思ったのだが――それにしたって、考えなし過ぎたかも。
『誰が』とは言わなかったし、訊ねなかった。
興味がないとは言えないけれど、相手が誰でも同じことだ。
――ゴンに逢わせるまで、帰らない。