夏空、蝶々結び。
「……あいつが休みの可能性はあるけど。どこにいるかまでは」
『あいつ』
愛情の込められた呼び方に、ますますその思いが強くなる。
「じゃあ、ともかく家に行ってみて……」
「ダメ。他人のあんたが家に押しかけて、何て言うつもり? 本気で捕まるぞ」
……確かに。
インターホンを押して、相手が出てくれて――その先、何て言ったら?
不在の場合はどうする?
帰りをずっと待っているなんて、それこそ通報されかねない。
『あいつ』と『他人』。
その落差に怯みそうになりながらも、ここで引くわけにはいかなかった。
「でも、もしかしたらゴンが見えるかも……」
「無理。あいつに霊感なんかないよ」
たとえ、そうだとしても。
それで終わることができないから、私に声をかけたんでしょう?
「だとしても、近くまで行ってみようよ。私なら、別にちょっと変に思われたくらい平気だから」
「……何でそこまで」
あまり嬉しそうには聞こえない。
迷惑かもしれないし、本当はゴン一人で大切なひとの側にいたいはずだ。
(怒られてもいい。嫌われても……)
所詮、他人だ。
ゴンとゴンの大事に想うひとが、一瞬でももう一度この世界で通じ合えるなら。
(いい、から)
「会えなかったら、その時考えればいいよ。だから、思いつくところを当たってみよう? 」
――『彼女』がいそうなところを。
「……ルームシェア、な。ルール、破りまくってるよな。お互い」
彼女――限定した言い方をしても、彼は怒らなかった。
今は何の関係もない、そんなことを呟いただけで。
「あっち。……バス乗ろ」
否定も肯定もせず、道を促す。
(……寒……)
突然、冷たい風が吹き、剥き出しの腕を擦る。
(もう、そんな時期なんだ)
ふと空を見上げれば、まだまだ夏色に見える。でも――……。
――夏の終わりは、そう遠くない。