夏空、蝶々結び。
「この近く」
バスを降り、しばらく歩いた。
当てもなくふらふらと歩いているようにも思えたけれど、いつもと違って今日はゴンが前にいる。
だからきっと、この道は彼女へと続いているのだと思う。
「言っとくけど、あいつの家教えたりしないよ。じゃないと、あんた最終的にやりかねないだろ。あいつがいてもいなくても、日が暮れたらそこでおしまいだからな」
(……バレてる)
黙りこくるのを見て、ゴンがわざとらしく大きく息を吐いた。
「かなえちゃんが捕まるとか、さすがに目覚め悪い」
彼はそう言うが、さっきまで照りつけていた太陽が弱まるにつれ、私の元気もなくなっていく。
「……ねえ……」
「ダメ」
即座に却下しながら、複雑な表情だ。
『俺の望むままには叶わない』
あの時言ったのは、こういうことだったのだろう。
それでも私はまだ、もしかしたらと願ってしまう。
だって、私たちがこうして一緒にいること自体、奇跡みたいなものだ。
そして、この世の中に奇跡なんてものが起こるのなら――それは私じゃなくて、彼女との間に生まれてほしい。
「あ……」
小さな公園に差し掛かった時、ゴンが息を飲む。
見ると、入口から一番奥にあるブランコが僅かに揺れていた。
ふわふわパーマの毛先とともに。
「ゴン……!? 」
女の子だ。
遠目で顔までは見えないけれど、女性に間違いない。
それも、今の彼と比べても変わらない年頃の。
「……遠くて、よく分かんね」
嘘だ。
さっき声を漏らしたことで、そんなの最初から分かっている。
「なら、近くに行けばいいでしょ……!! 」