夏空、蝶々結び。

それは、あまりに小さな奇跡だった。
だって、ゴンが何と言おうと、私は彼女を見つけるまで帰るつもりがなかったのだから。
おかげで、こんなに早く彼女に会うことができたけれど、そうでなくても何日だって粘っていた。


「かなえちゃん!? 」


とはいえ、せっかくこうして奇跡とやらが起きてくれたのなら。


(逃しちゃいけない)


私は駆け出した。

たとえこの先、もっと大きな奇跡が待っているのだとしても。
手を伸ばすか迷っている間に、淡く消えてしまうかもしれないから。

――そんなこと、もうゴンに経験してほしくないの。


「あっ」


少し近づいたところで、彼女が慌てて立ち上がった。
視線の先には、携帯のストラップ。
ブランコを漕いでいて落としたのだろう。


「……っ」


今では、あんまり見かけないような――ううん、きっとゴンとの――……。


「ありがとうございます」


そんな大切なものに触れていいのか悩み――拾って彼女に渡した。
はにかんだような、寂しげな笑顔はやっぱり可愛らしくて。

胸が痛くて、堪らなかった。


「あの……? 」


固まったままの私に、不思議そうに首を傾げた。


「す、すみません」


でも、まだ動けない。
このまま帰るなんて、できない。


(お願いだから)


もしも、神様が見ているのだとしたら。
もうちょっとだけ、ゴンに手を貸してあげて。
これから先を思えば、こんな一瞬くらいいいでしょう?

ゴンと逢わせて。
話をさせてあげて――……。


「いえ。私も、どこかでお会いしたかなって」


不躾で、気持ち悪かったかもしれないのに、彼女はこう言ってくれた。


「何だか、雰囲気が誰かに似ていて。……こんなこと言って、変ですよね」


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