夏空、蝶々結び。
もちろん、私たちは初対面だ。
なのに、彼女がそう言ってくれるのは、ここにゴンがいるから――……。
「ごめん、お待たせ」
後ろから男性の声がした。
驚いて振り向くと、当然ながら相手も驚きと警戒の色を浮かべてこちらを見た。
「落とし物、拾ってもらったの」
庇うように前に出た彼を、宥めるように言ってくれた。
「……かなえちゃん、行くよ」
(……でも……! )
これじゃ、ゴンと彼女が二人になれない。
彼らの関係は確かめようがないけれど、どうしたって付き合っているように見える。
「俺の気は済んだ。だから、俺を連れて帰ってよ。俺がいるのは……」
――まだ、かなえちゃんのとこなんだからさ。
頭を下げて公園を出ると、後には何も残されていない。
バスに乗り、電車に乗り換え――帰路に就くだけだ。
『よかったの? 』
なんて、訊けなかった。
可愛い彼女が他の男といて、辛くないわけ――……。
「勝手に勘違いして、悲壮な顔しないでくれる? 」
次第に見慣れたものになっていく風景。
ぼんやりと、でも必死になって窓を見ているとゴンが言った。
「言ったろ。俺は満足してるんだから、その酷い顔どうにかして」
多分、慰められているのだ。
本当は私がそうすべきなのに、ちっともできやしなかった。
それに、ゴンも望んでくれないだろう。