夏空、蝶々結び。

「……この顔はどうしようもないもん」


唇を噛んだら、泣きそうになるのを誤魔化そうと顰めっ面をしたら。


「前も言ったけど、ないものに執着なんてしてない。俺が気になってたのはあいつ自身じゃなくて……あいつが、とっとと次を見つけてるかどうか」


(どうして……? )


彼だって人間だ。
執着したっていいし、泣いたって喚いたっていい。取り憑いた相手に、そんなふうに笑うこと――。


「だから、もういい加減」


(ないんだよ、ゴン)


「んな酷い顔すんなよ。……頼むからさ」


(そっちこそ、その顔やめてよね)


困ったような、くすぐったそうな――随分甘く、優しい表情。


「あー、ったく……それじゃ、まるであんたが失恋したみたいだろ」


涙が止まらなかった。
我慢していたのに、泣きたいのはゴンの方だろうに。


「もう……あんたって」


『仕方ねぇな』


迷ったのか、本気でどうしようもないと思ったのか。
何故かそっぽを向いた後、私の頭を軽く叩いた。

ぽん、ぽん。

そんなふうに表現するには少しだけ荒っぽかったけれど、私の髪は乱れてくれない。

それでも私には、すごく温かく感じるのだ。


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