夏空、蝶々結び。



・・・





「鼻水、止まった? 」


どうにか家に帰りついた頃には、瞼が腫れぼったくて仕方なかった。でも、それにしたって。


(……そこは“涙”って言ってよね)


「だーかーらー、何度も言ってるでしょ。……別に、感動の再会がしたくて、かなえちゃんに取り憑いたわけじゃねぇの」


なおもティッシュの箱を抱えている私に、


「それ、もう空じゃん」


なんて言いながら、新しい箱をぷかぷか浮かせて渡してくれた。


「あんたは、薄情だって言うのかな。男連れてた、あいつのこと」


ばつが悪くて、涙を拭うふりして俯いた。
彼女に、今も泣き崩れていてほしいなんて思わない。
それでも、やっぱりどこかで――勝手にショックを受けていたのだ。


「ま、ね。前の俺なら、そうだったかも」


隣に腰を下ろすと、小さく笑う。


「けど、嘘じゃない。俺に縛られたままじゃなくて、誰かがあいつの側にいるって確かめられて……よかったと思ってる」


(そんなこと言わないでよ)


いつも、横柄でふてぶてしいくせに。
突然、そんな悟ったような――物分かりのいいこと、言わないでほしい。


「文字通り、縛られてたのは俺だけ。あんたに出会わなきゃ、あとどれだけ……」

「そんなことないと思う」


遮ったのは、本当にそう思うのと――お礼はまだ、欲しくないから。


「彼女だって、辛かったと思う。ゴンがいなくて寂しい気持ちは、きっとまだ残ってるよ。じゃなきゃ、あんなふうにストラップを握りしめたりしないし、それに……」


――ああして、空を見上げたりしない。


「それじゃダメだろ。すっかり忘れてくれないと困る」


言葉とは裏腹に、少しだけ表情が綻ぶ。


「……ありがとな」


拒否した言葉が、不意打ちで降ってくる。
受け取ってしまいたくなくて、ただ首を振った。


(……まだ早いよ、ゴン)

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