夏空、蝶々結び。
自分勝手で、あまりに酷い。
実行するつもりはないが、やり場のない思いが込み上げてくる。
(あいつが大丈夫そうで良かったなんて、やっと善人じみたこと言えるようになったのに。やってくれるよな、かなえちゃん? )
寂しくないと言えば嘘だ。
忘れてほしいなどと言いながら、まだ心の中にいられるのをどこかで喜んでしまう。
それでも、あの男から奪いたいとか、彼らの幸せをを壊したいとは思わない。
良かった――かなえと過ごしたことで、ようやくそう思えるようになったのに。
「楽しかったよ、かなえちゃん。……いろいろ、笑えるくらい」
会いたくて、会いたくて。
脱走を妨害されて、けれど必死で抵抗したあの通り。
『お姉さん』
動けなくて、辛くて、どうしようもなくて。
『俺を一緒に連れて帰ってよ』
かなえと出逢って。
『ゴンは、ここにいるよ』
そう言ってもらえた、あの道。
あの日、病室に連れ戻されて、彼女に会うことができなかった悔しさも。
通行人に奇異の目で見られたことも、もうそれほど思い出さない。
(あんたが、その上をいってくれるから)
何度、一人言になるからやめろと、かなえに言ってみても。
その度に、忠告を聞かず喋り続けるのだ。
『ゴン』
勝手に付けた、そんな名前で呼びながら。