夏空、蝶々結び。
どのくらい、時が流れただろう。
自分の名前も忘れてしまいたくなるくらい――それは、分からないとは言えないまでも、考えたくないくらいと言うには十分だった。
最初の頃は、どうしたって彼女に会いたくて。
会えなければ、雰囲気の似た女性ばかりに目がいったけれど。
すがる思いで見つけたのは全く逆の、どこか冴えない――……。
(……って、思ってたのにな)
お祓いでもされるのかと思いきや、こんな得体の知れない存在を同居人だと言い、普通に話しかけ―― 一人の男として扱ってくれた。
「ほんと図太いよな、あんた」
遺してしまった人や果たせなかったことを思うと、もちろん苦しい。
けれども、そこから記憶を進ませて、かなえと出逢った日まで辿り着けば、こうして笑いが込み上げてくる。
「……俺さ。あんたじゃなかったら、きっと……こんなふうに思えなかった」
あの男を妬んだだろう。
彼女に何故だと、問い質したくなったかもしれない。
胸が痛んだとしても二人を祝福できるのは、かなえがいたから。
「だから、ありがと。もう俺のことはいいからさ……さっさと、雅人さんのものになっちゃえよ」
――頼むから、あんたにお礼を言えるままでいさせて。