夏空、蝶々結び。
「あ、大澤さんには淹れてあげませんからね。いつもしてませんけど」
カナちゃんに腕を取られる日がくるなんて、思いもよらなかったけれど。
「いいよ。佐々に凄まれるくらいなら、自分でやる」
「……凄んでません!! 」
大それたことだっただろうか。
いや、そうに違いない。
それでも後悔はしていない――おじさんも役職も忙しいかもしれないが、ヒラだってそれなりに大変なのだ。
「かなえちゃん。ミッション……思ったより、楽に成功しそうだね」
背後で呟かれたが、私は聞こえなかった。
絶対、絶対。
(……聞こえない)
「別に、あんたの為にいたわけじゃないけどさ」
かなえちゃんは、もう大丈夫。
……俺がいなくても、な。
――絶対、何も聞こえてなんかいないのに。
その夜、いくら待ってもゴンは帰ってこなかった。