夏空、蝶々結び。



一夜明けても、ゴンの姿はないままだ。


(……ゴン……)


まさか、もういってしまったのだろうか。
何度も浮かんでは全力で否定したことが、また脳裏を過る。


「ゴン!? 」


カリカリとドアを何かが擦っている。
そんなはずないのに、勢いよく開け――がっかりした。


「え? 」


俯いた先に、仔猫が一匹。
足元をくすぐっている。


「何で? 」


誰かのペットだろうか。
ここはペット禁止だから、こっそり飼っていたのかもしれない。

可愛い来客に、少しだけ気分が明るくなる。
そういえば、今日は初めて言葉を発した。


(そんなの、いつものことだったのにね)


――ゴンが来るまでは。


「飼い主さん以外に、見つからないようにね」


いい子に返事をしながら、仔猫はドアの隙間から部屋に入ってしまった。


「もう……」


(飼い主が心配してないといいけど)


もう少し経ったらドアを開けて、外に出してあげよう。
本当は家を探してあげたいけれど、大家さんに言いつけられでもしたら大変だ。


「私も寂しかったから、いいけどね」


そう――寂しい。
突然できたルームメイトが、また突然にいなくなって。
意地悪もされず、文句も言われず、しんと静まり返ったこの部屋にひとりぼっち。


「……っ」


掠れた声で仔猫が鳴いた。


(どうしたの。最近、涙腺おかしい)


慣れていたはずなのに。
今までの生活の方が、異常だったのに。
――どうして、止まってくれないの。

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