夏空、蝶々結び。
仔猫がそっとすり寄ってきた。
「ごめんね。泣いたらダメだね」
いつか、ううん、もしかしたら既に――ゴンはいないのかもしれないのに。
「ゴンにとっても、その方がいいって分かってるんだよ。でも」
泣きじゃくるのも、一人言も止まらない。
こんなところを見られたら、
『一人言、恥ずかしいからやめれば? 』
なんて、言うんだろう。でも――……。
「一人言じゃなかった。だって、ゴンはいてくれたから」
抱えた膝に瞼を押しつける。
もう、涙を拭うのさえ億劫だった。
「酷いよね」
笑って、さよならをしてあげられない。
寂しいのは当たり前だとしても、ゴンの未来を望んであげるべきなのだ。
(どうして……)
こんなにも、ぽっかりと穴が空いてしまうのだろう。
最初は嫌だったこの奇妙な同居生活を、なぜこうも引き留めてしまうのかな。
「ニャア」
少し怒ったように鳴くくせに、抱き上げると頬擦りされる。
そんな様子に慰められ、ほんの少し口角が上がる。
けれど――……。
まだ、膝は抱いたまま。
「ご飯食べたら、帰った方がいいよ」
泣き疲れた後も、仔猫は帰ろうとしなかった。
何度かドアを開けてみても、足に纏わりついて離れない。
抱っこは不満らしく、プイとそっぽを向かれてしまうのだが。
(何かあったかな……)
買い物に行く気にもなれなかったから、冷蔵庫の中は悲惨かもしれない。
「あ……」
悩んでいる間に、仔猫はさっと駆け出した。
ドアの前で立ち止まり、私を見上げて待っている。
「……バイバイ」
やっぱり、寂しいけれど――彼には帰る場所も、行くところもあるのだ。
(言えた、な)
ゴンにも言える日がくるだろうか。
そう問いかけ、また泣きそうになり――ドアを閉めた。