ハージェント家の天使

　モニカーー御國の意識が戻るまで、そして現在、夜間のニコラの世話は、旦那様が雇った乳母がニコラの面倒を見てくれていたとの事だった。

（ニコラの母親としては、乳母さんにお礼を言うべきなんだろうし、元の身体に戻る為にはもっと情報を集めるべきなんだろうけども）
　けれども、と御國は先程から部屋を掃除してくれているメイドに視線を向けた。

　このメイドもそうだが、どうも「モニカ」はメイド達を始めとする使用人達に、恐れられている様子だった。
　誰もが「モニカ」とは目線を合わせてくれず、御國から話しかけようとすると距離をとろうとしたり、手が震えていたり、俯いたりするのだった。
　もしかしたら、「モニカ」は使用人達から恐れられる存在だったのかもしれない。
　それでも御國は元の身体に戻る為に、使用人達から情報を得なければならない。

　何か話しかけるきっかけはないだろうか。と御國がメイドが掃除する姿を見守っていた時だった。
　メイドは鏡台の拭き掃除に夢中になっていたのか、自分の肘が近くの花瓶に当たりそうになっている事に気付いていなかった。

　御國はベッドからそっと出ると、メイドの肘がぶつかる前に、バレないように花瓶の位置をずらそうとした。
「あっ……」
　けれども、御國が花瓶に手が届く直前に、メイドの肘が花瓶に当たってしまった。
　御國は慌てて手を伸ばすと、花瓶を支えたのだった。
（危なかった……）
　ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、御國が視線に気づいて振り返ると、そこには真っ青な顔になったメイドが呆然としていたのだった。

「も、申し訳ございません……！ モニカ様の手を煩わせるなど……！」
　メイドは泣きそうな顔で、何度も頭を下げてきた。
「大丈夫です。それよりも花瓶の水が身体にかからなかったでしょうか？ 怪我は？」
　御國は花瓶を元の位置に戻しながら確認すると、メイドは「大丈夫です！」と何度も頷いたのだった。
「それなら良かったです」
　せっかくだからと、御國は気になっていた事を尋ねたのだった。

「最近、旦那様をお見かけしてないんですがお仕事が忙しいんですか？ それとも、身体に何か……？」
　御國の言葉に、メイドは何を言われたのかわからないという顔をしていたが、やがて慌てて首を振ったのだった。