ハージェント家の天使
 自分の幸せは、自分で手に入れるからと。

 今まで、リュドがモニカの幸せを願った分、今度はモニカがリュドの幸せを願うから。
 モニカに使った分の喜びや幸せを、今度は自分に使って欲しい。
 これからはリュド自身が、幸せになって欲しい。

「今まで、『私』が幸せになるように、尽くしてくれてありがとう。これからはお兄ちゃん自身が幸せになるように力を振るってね」
「モニカ……。私は」
「私だけが幸せになるのは心苦しいの。お兄ちゃんも一緒じゃなきゃ」
 リュドの澄んだ青色の瞳は、真っ直ぐにモニカを見つめてきた。

「お兄ちゃんだって、やりたい事や好きな事があるでしょう? これからはお兄ちゃんが幸せになれるようにやりたい事をやって。私もお兄ちゃんが幸せになれるように願ってる」

「そうだな。私にもやりたい事がある」
「そうでしょ! これからは自分の事は自分で何とかする。だから、お兄ちゃんはお兄ちゃん自身の事だけを考えて」
「ねっ?」っと、モニカが念を押すと、リュドは「参ったな」と悲しげに笑ったのだった。
「モニカは今、幸せなのか、困った事はないか心配で、やって来たというのに……。これでは逆だな」
 モニカはクスリと笑った。
「だったら、お互いに気に掛け合えばいいと思うよ。だって、兄妹なんだから!」
 例え、他家に嫁いだとしても、モニカがリュドの妹である事に変わりはない。
 どんなに遠く離れても、お互いを心配し合い、相手の幸せを願うのはおかしくないだろう。

「だが、どんなに遠く離れていても、困っている時はすぐにモニカの元に駆けつける。……何かあれば、いつでも頼って欲しい」
「ありがとう、お兄ちゃん。……大好き」
 モニカが呟いた言葉に、リュドの顔は赤くなったのだった。
「こんなのは兄として、至極、当然の事だ」
「でも、その当然の事が出来ない人だっているよ」

 自分にとっての「当たり前」は、相手にとっては「当たり前」とは限らない。
 リュドにとっての「当たり前」が、他の人にとっては「当たり前」では無いように。

「そうだったな……」
「そうだよ! それよりも、お兄ちゃんがやりたい事って何?」
「それは……」と、リュドは口ごもったので、モニカは慌てて首を振ったのだった。
「勿論、聞いてダメなら聞かないから!」
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