ハージェント家の天使
 全てを終えた大天使の行方は分からなかった。
 カーネ国に残ったとも、カーネ国から出国して旅に出たとも、力を使い果たして天に還ったとも、魔力に強く当たり過ぎて死した後にカーネ族に生まれ変わったとも、言われている。

「それでも、私達は大天使様を忘れてはいけない。この国は大天使様の助力があって完成したのだからと……。そうして、ご先祖様達は大天使様の像を建てました。国の原動力でもある、炎を守る核としての役割も含めて」

 国の浮遊力の元でもある炎を剥き出しのままにしておくのも良くない。
 何かで守る必要があった。
 その為に、耐熱性のある素材で作った像で守る事にした。
 カーネ族はいつまでも大天使の存在を忘れないように、像の形を大天使にしたのだった。

「そうだったんですね……」
 モニカは関心した。
 ヴィオーラは紅茶を飲んでひと息つくと、「話はこれで終わりではありません」と続けたのだった。

「それから、数百年後。このレコウユスとガランツスが同盟の証として、花嫁を迎えた際、不思議な事が起こるようになりました」
「不思議な事ですか?」
 マキウスが首を傾げると、ヴィオーラは頷いたのだった。
「迎え入れた花嫁の中に、異なる世界から来た者が混ざるようになったのです。それも、必ず王族に近い血筋が選んだ花嫁の中に」
「それって……」
「私?」
 リュドとマキウスは、揃ってモニカを見つめたのだった。

 花嫁の中に、毎回必ず入っている訳では無い。
 ただ、その異なる世界からやって来た者は、必ず国から選ばれた花嫁と同じ姿形をしているとされていた。
 どの基準で、どういった理由で、現れるのかはわかっていなかった。
 人数も決まっている訳では無いようで、1人の時もあれば、数人の時もあった。

 ただ、わかっているのは。
 花嫁に選ばれた前後に、瀕死の重症、または死亡した女性の姿である事。
 王族か、又は王族の血筋を引く者ーー侯爵家が選んだ花嫁の元に現れるというだけであった。

「大天使様のように、異なる世界からやって来た者達の事を、私達は密かに、大天使様の使いであるという意味も込めて、『天使』と呼んで保護してきました。
『天使』を迎えた家には、幸運と巨万の富がもたらされると言われているからです」

 他には無い知識や技術、思想などを持っている「天使」は、国の宝でもあった。
 決して、悪用されてはならない、奪われるような事も。
 だから、「天使」の存在を大々的に広める事はせずに、密かに王族や関係者達で保護をしてきたのだった。

「保護って、じゃあ、私はマキウス様と離ればなれになるんですか……?」
「モニカは誰にも渡しません。例え、姉上であっても」
 マキウスがソファー脇に立て掛けていた剣の柄に手をかけたのを見て、ヴィオーラは「落ち着きなさい」と止めたのだった。

「誰も、2人を引き離すとは言っていません。ただ、いざという時に備えて、こちらで把握しておきたいのです」
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