ハージェント家の天使
 ただヴィオーラがロードデンドロン家に戻っただけでは、今度は跡継ぎがいないブーゲンビリア家が無くなってしまう。

「それじゃあ、お姉様とは……」
 モニカが肩を落としていると、ヴィオーラは「大丈夫です」と告げたのだった。
「たとえそうなったとしても、私が貴方達の姉である事に変わりはありません。これまで通り、引き続き頼って下さい」
「ありがとうございます。お姉様! あの……」
 モニカが言いづらそうにしていると、ヴィオーラは首を傾げたのだった。

「どうしましたか?」
「あの、マキウス様はどうして、私の事を愛してくれるのでしょうか?」
「それは……?」
「マキウス様は、私が『モニカ』じゃないって話した時から、私を大切に想ってくれました。今では、愛しているとも……。それは、どうしてでしょうか?」

 最初に、モニカじゃないと明かした時から、マキウスは「貴方の様な素敵な方を失わなくて良かった」と言っていた。
 それからも、事あるごとにマキウスはモニカに優しくしてくれた。
 あれはどうしてなのだろう。モニカじゃないと明かすまで、マキウスとはさほど、話していなかったのに。

「モニカさん」
 ヴィオーラは優しく微笑んだ。
「何故、花嫁に選ばれる事が名誉な事なのか、知っていますか?」
 リュドはモニカが幸せになる事を願って、モニカをガランツスからの花嫁に加えてもらった。ただ、その理由をモニカは知らなかった。
 モニカは首を振った。
「私達、カーネ族は、一度愛した女性を生涯愛し続けます。死が分かつまで」

 愛であれ、信頼であれ、マキウスやヴィオーラ達カーネ族は、一度、情を向けた相手を生涯大切に想い、忠順になる傾向があった。
 その為、レコウユスでは昔から離婚率が低くい。
 よほどの事がない限り、国が迎え入れた花嫁達も、夫から離縁される事や、国に帰される事も無い。

「きっと、弟は、マキウスは、モニカさんを迎え入れた時からずっと好きなのです。
 階段から落ちて、目を覚ました後は、今のモニカさんを」

 おそらく、マキウスはモニカに一目惚れしたのだろうと、ヴィオーラは思う。
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