ハージェント家の天使

　離れて暮らすようになってからはわからないが、これまでマキウスの周りには、モニカの様にたおやかな女性はいなかったのだろう。ーーそれまでは、ヴィオーラやアガタ、アマンテの姉妹の様に、歳上の女性しかいなかったから。
　モニカの様に、「守りたくなる女性」は特に。

「そ、そうなんでしょうか……？ でも、それなら嬉しいです。もっと、マキウス様に相応しい人になれるように頑張りたいです！」
　気合いを入れたモニカを、ヴィオーラは微笑ましく思った。
「あれでも私の弟です。弟をもっと頼って下さい。どうも、好きな女性の前では、格好をつけて、頼られたいようなので」
　モニカは首を傾げた。
「そう、なんですか……？」
　モニカと一緒にいる時のマキウスの様子を見ていると、どうもマキウスはモニカに頼られたいようで、格好をつけているような気がした。
　ヴィオーラと居る時は、もっと気だるげな姿や、面倒くさがる姿も見せるのだが。

「モニカさん」
　ヴィオーラはモニカの顔を覗き込んだ。
「私は弟が頼りになると信じていますが、マキウスはあれでも男です。女性の心の機微には疎いでしょう。もし、マキウスに相談しづらい事で、困ったり、悩んだりしたら、いつでも私を頼って下さいね」
「お姉様……！」
　モニカがヴィオーラに向かって恐る恐る両手を伸ばすと、察したヴィオーラも同じようにモニカに向かって両手を伸ばしてくれた。
　そうして、モニカは駆け寄ると、ヴィオーラに抱きついたのだった。

「お姉様……！ 私、私……」
　モニカを抱き返しながら、ヴィオーラはモニカの頭を優しく撫でた。
「いいのですよ。何も言わなくて。……今まで大変だったでしょう。マキウスしか頼れなくて」
「はい……。でも、マキウス様が優しくしてくれました」
　義妹《いもうと》のいじらしい姿に、ヴィオーラは笑みを浮かべた。
　もしかしたら、どこかで周囲に相談しづらい内容で、悩んだ事があったのかもしれない。
「これからは私も頼って下さい。私も、リュド様と同じように、モニカさんを大切に想っています」
「はい……」
　モニカの肩が震えた。ヴィオーラは優しく撫で続けたのだった。

「ヴィオーラ殿」
　少しして、リュドが玄関ホールにやってきた。
「リュド様、もうマキウスと話は終わったのですか？」
「ええ。お待たせして申し訳ありません」