ハージェント家の天使
「マキウス様の手、いつも温かいです……」
「モニカの手が冷たいのです」
 そうして、2人は見つめ合うと、指を絡めたまま、口づけを交わしたのだった。

 長いような、短いような、口づけを交わすと、2人はそっと顔を離した。
「何故でしょう……。マキウス様とキスを交わすと、気持ちいいんです」
「私もです。その……」
 頬を赤らめていた2人だったが、やがてマキウスは決意したように告げたのだった。

「モニカ、貴方の全てを私に下さい。代わりに、私の全てを貴方に差し上げます」

「それって……」
 モニカの心臓が大きく高鳴った。
 頭を過るのは、あの公園での夜。
 でも、あの時の男子とマキウスは違う。
 男子には下心があった。けれども、マキウスには無い。
 もし、マキウスにも下心があったのなら、今頃、モニカはマキウスの手にかかっているだろう。
 あくまで、マキウスはモニカの意思を尊重してくれている。
 それならーー。

 モニカは泣きそうな顔で笑うと、頷いた。
「私の全て差し上げます。だから、だから……。私とずっと一緒にいて下さい!」
 マキウスは目を見開くと頷いた。
「ええ。ずっと一緒にいます。……愛しています、モニカ」
「私も、愛しています!」
 そうして、モニカはマキウスに抱きついたのだった。
 そんなモニカを、マキウスは優しく抱き返してくれたのだった。

 ようやく、マキウスと夫婦になれたのだと、モニカは思った。
 本来なら、知り合うところから始まるはずが、逆から始まってしまったこの生活。
 本来の夫婦の形になった私達は、どんな困難も乗り越えられる。
 マキウスとなら、きっとーー。

 マキウスはモニカを抱き上げると、ベッドに運んだ。
 壊れ物を扱うように、丁重にベッドに寝かせると、その上に覆い被さったのだった。
「モニカ。嫌な時ははっきり言って下さい。……そうでなければ、私は止められません。こんなに愛おしい人を目の前にして」
「……はい。マキウス様」
 そうして、マキウスはモニカに口づけた。
 啄むような口づけは、やがて舌を絡ませて濃密に交じり合う。
 モニカの胸の中は激しく熱を帯びていた。気持ちがよくて、頭の中が蕩けてしまいそうになる。

 マキウスはモニカのネグリジェに手を掛けた。
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