ハージェント家の天使
モニカとして私は生きる
御國は真っ暗な場所に座っていた。
「ここは……?」
正座を崩すような形で座っていた御國がふと上を向くと、1頭の光で出来た白い蝶が上へと飛んでいった。
その蝶は、御國の中から飛び立ったような気がした。
御國が蝶に向かって手を伸ばすと、蝶から声が聞こえてきた。
ーーみんなを、幸せにしてね。
その声は、御國がこの世界で目覚めてから、ずっと自分の中で聞こえていた声だった。
ーーみんなを、よろしくね。
「あなたは、もしかして、モニカさん?」
御國が問いかけるが、蝶は飛んで行ったのだった。
「待って!」
御國は立ち上がると追いかけた。
走って追いかけていると、指先に触れるか触れないかという距離まで蝶に近づけた。
そうして、御國が蝶を捕まえようとした途端、蝶は弾けて光の粒となった。
その光の粒を受けた御國の頭の中では、走馬灯のように「モニカ」の映像が流れていったのだった。
「これは、モニカさんの記憶?」
「モニカ」が出会った人、印象的な出来事、マキウスとの出会い、ニコラの出産。そして、階段からの転落と、映像はずっと続いた。
そうして、光の粒が全て御國の中に消えた時、御國の頭の中はグルグルと回った。
まるで、ミキサーにかけられているみたいに、御國の記憶と「モニカ」の記憶が混ざり合っていったのだった。
「あ、あ……っ!」
御國は頭を抱えると、その場に蹲った。
私が、私になっていく。
頭から爪先、指先へと、私が溶けて、私の中に流れていったような気がした。
御國とモニカはひとつになったのだった。
「モニカ!」
誰かが名前を呼んでいた。
胸が温かくなる声だった。涙が一筋、頬の上を流れていった。
今までは、呼ばれる度に違和感のあった名前。
けれども、これからはそんな事はなくなる。
なぜなら、私も私になったのだからーー。
声が聞こえてくる方に、御國はーーモニカは、一心に手を伸ばしたのだった。
これからはモニカとして、この世界で生きていく為に。
「モニカ! しっかりして下さい……!」
モニカが目を開けると、目の前にはマキウスが心配そうに覗き込んでいたのだった。
「旦那様……。マキウス様……」
モニカが起き上がろうとすると、マキウスは「まだ寝て下さい」とモニカをそっとベッドに押し戻したのだった。
「急に何があったんですか? 突然、苦しみ出したかと思うと、意識を失って」
モニカが意識を失った後、マキウスは屋敷の近くに住んでいる医師を呼んでモニカを診てもらったが原因がわからなかったらしい。強いて言えば、ニコラの育児疲れではないかというのが、医師の見立てだった。
「私は、今度こそ、貴方を失うかと思いました」
「マキウス様……」
マキウスはモニカの汗ばむ額を、そっと撫でたのだった。
「先程、お話しした通りです。貴方の様な素敵な女性を失いたくありません。私はまだ貴方の事を何も知らない。これから知りたいと思ったばかりです」
「私もです。マキウス様」
モニカはマキウスに微笑んだ。
「ここは……?」
正座を崩すような形で座っていた御國がふと上を向くと、1頭の光で出来た白い蝶が上へと飛んでいった。
その蝶は、御國の中から飛び立ったような気がした。
御國が蝶に向かって手を伸ばすと、蝶から声が聞こえてきた。
ーーみんなを、幸せにしてね。
その声は、御國がこの世界で目覚めてから、ずっと自分の中で聞こえていた声だった。
ーーみんなを、よろしくね。
「あなたは、もしかして、モニカさん?」
御國が問いかけるが、蝶は飛んで行ったのだった。
「待って!」
御國は立ち上がると追いかけた。
走って追いかけていると、指先に触れるか触れないかという距離まで蝶に近づけた。
そうして、御國が蝶を捕まえようとした途端、蝶は弾けて光の粒となった。
その光の粒を受けた御國の頭の中では、走馬灯のように「モニカ」の映像が流れていったのだった。
「これは、モニカさんの記憶?」
「モニカ」が出会った人、印象的な出来事、マキウスとの出会い、ニコラの出産。そして、階段からの転落と、映像はずっと続いた。
そうして、光の粒が全て御國の中に消えた時、御國の頭の中はグルグルと回った。
まるで、ミキサーにかけられているみたいに、御國の記憶と「モニカ」の記憶が混ざり合っていったのだった。
「あ、あ……っ!」
御國は頭を抱えると、その場に蹲った。
私が、私になっていく。
頭から爪先、指先へと、私が溶けて、私の中に流れていったような気がした。
御國とモニカはひとつになったのだった。
「モニカ!」
誰かが名前を呼んでいた。
胸が温かくなる声だった。涙が一筋、頬の上を流れていった。
今までは、呼ばれる度に違和感のあった名前。
けれども、これからはそんな事はなくなる。
なぜなら、私も私になったのだからーー。
声が聞こえてくる方に、御國はーーモニカは、一心に手を伸ばしたのだった。
これからはモニカとして、この世界で生きていく為に。
「モニカ! しっかりして下さい……!」
モニカが目を開けると、目の前にはマキウスが心配そうに覗き込んでいたのだった。
「旦那様……。マキウス様……」
モニカが起き上がろうとすると、マキウスは「まだ寝て下さい」とモニカをそっとベッドに押し戻したのだった。
「急に何があったんですか? 突然、苦しみ出したかと思うと、意識を失って」
モニカが意識を失った後、マキウスは屋敷の近くに住んでいる医師を呼んでモニカを診てもらったが原因がわからなかったらしい。強いて言えば、ニコラの育児疲れではないかというのが、医師の見立てだった。
「私は、今度こそ、貴方を失うかと思いました」
「マキウス様……」
マキウスはモニカの汗ばむ額を、そっと撫でたのだった。
「先程、お話しした通りです。貴方の様な素敵な女性を失いたくありません。私はまだ貴方の事を何も知らない。これから知りたいと思ったばかりです」
「私もです。マキウス様」
モニカはマキウスに微笑んだ。