ハージェント家の天使
花嫁
「国が受け入れた女性を、私達は『花嫁』と呼んで迎え入れます。
誰がどの花嫁を迎え入れるか、選ぶ権利は身分が高い者から得ます。当然、王族から。
そして、王族は花嫁達の中で最も身分が高い花嫁ーー王族を選びます」
この国では、王族に次ぐ身分は公爵となる。
貴族の爵位の中での最高位は公爵であり、それ以降は、公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の順となっている。
ただし、実際には公爵と侯爵は、ほぼ同等の身分と考えられていた。
王族、公爵、と順に花嫁を迎え入れていく中で、自分の身分が低ければ女性を選ぶ権利は後半になる。
後半になるにつれて、残っている女性は相手国で身分が低い者か、それ以外で何か問題がある者らしい。
「我が家は男爵です。それ以前に、私は国同士の政略結婚に興味がありませんでした。そこで、最後まで残った女性を妻に迎え入れました。それが、モニカ、貴方でした」
マキウスがモニカを迎える際に国から教えられた情報によると、モニカは孤児だったらしい。
モニカの兄が両国を繋ぐ騎士であり、立派な功績を挙げた事で、その栄誉として妹のモニカを国が迎え入れたとの事だった。
「そうだったんですね……」
「けれども、私は政略結婚であろうと、興味が無かろうとも。誰であれ、1人生まれ故郷を離れて、この地にやって来た貴方を、大切に迎え入れるつもりでした」
「ただ」とマキウスは顔を曇らせた。
「モニカ自身は、私に一向に心を開いてくれませんでした。婚姻さえも、彼女は受け入れてくれなかった。使用人を傍につければ、暴力を振るい、いつしか彼女は1人で部屋に籠もるようになりました」
使用人がモニカの部屋の前に食事を置き、時間があればマキウスが様子を伺いに行く、そんな日々が続いていた。
「それからある時、私達と彼女との仲が、決定的に悪くなる事件が起きました」
マキウスはベッドをそっと撫でた。
「モニカがニコラを身籠ったのです」
マキウス自身も、モニカの妊娠については責任を感じていた。
妊娠が発覚したモニカは、更に酷い有り様となった。
毎日、泣き叫んでいた。もう、マキウスどころか、誰の言葉もモニカに届かなかった。
ようやくモニカが落ち着いた時には、臨月が近かった。
モニカは何とかマキウスとの娘であるニコラを産んだが、出産後はニコラ共々部屋に閉じこもってしまった。
誰にも会わず、マキウスが雇った乳母のアマンテにさえ、ニコラを触れさせなかった。
そんな中、再び事件は起こった。
「ニコラが生まれて約2か月が経った頃、モニカは階段から落下しました」
たまたま、外出中だったマキウスが使用人から連絡を受けて屋敷に戻ると、階段の下には使用人に囲まれてモニカが倒れていた。
マキウスは使用人から話を聞いたが、モニカが階段から落ちる瞬間を見た者は、誰もいなかった。
これまで、ニコラと部屋に籠っていた筈のモニカが、なぜ部屋から出て階段から落ちたのかも謎のままだった。
事故だったのか、自殺だったのか、それは誰にもわからなかった。
モニカを国に帰そうかと、マキウスが悩んでいた時だった。
「モニカが倒れてから約1か月後、モニカは目を覚ましました。そうして、人が変わったようになりました。……それが今の貴方です」
モニカが目覚める事は難しいと、マキウスは医師から言われていた。
使用人達はそんなモニカに同情しつつも、もう乱暴をされないと安堵もしていたようだった。
「もしかして、私が使用人の皆さんから怖がられていたのも、『モニカ』が厳しく当たっていたからですか?」
誰がどの花嫁を迎え入れるか、選ぶ権利は身分が高い者から得ます。当然、王族から。
そして、王族は花嫁達の中で最も身分が高い花嫁ーー王族を選びます」
この国では、王族に次ぐ身分は公爵となる。
貴族の爵位の中での最高位は公爵であり、それ以降は、公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の順となっている。
ただし、実際には公爵と侯爵は、ほぼ同等の身分と考えられていた。
王族、公爵、と順に花嫁を迎え入れていく中で、自分の身分が低ければ女性を選ぶ権利は後半になる。
後半になるにつれて、残っている女性は相手国で身分が低い者か、それ以外で何か問題がある者らしい。
「我が家は男爵です。それ以前に、私は国同士の政略結婚に興味がありませんでした。そこで、最後まで残った女性を妻に迎え入れました。それが、モニカ、貴方でした」
マキウスがモニカを迎える際に国から教えられた情報によると、モニカは孤児だったらしい。
モニカの兄が両国を繋ぐ騎士であり、立派な功績を挙げた事で、その栄誉として妹のモニカを国が迎え入れたとの事だった。
「そうだったんですね……」
「けれども、私は政略結婚であろうと、興味が無かろうとも。誰であれ、1人生まれ故郷を離れて、この地にやって来た貴方を、大切に迎え入れるつもりでした」
「ただ」とマキウスは顔を曇らせた。
「モニカ自身は、私に一向に心を開いてくれませんでした。婚姻さえも、彼女は受け入れてくれなかった。使用人を傍につければ、暴力を振るい、いつしか彼女は1人で部屋に籠もるようになりました」
使用人がモニカの部屋の前に食事を置き、時間があればマキウスが様子を伺いに行く、そんな日々が続いていた。
「それからある時、私達と彼女との仲が、決定的に悪くなる事件が起きました」
マキウスはベッドをそっと撫でた。
「モニカがニコラを身籠ったのです」
マキウス自身も、モニカの妊娠については責任を感じていた。
妊娠が発覚したモニカは、更に酷い有り様となった。
毎日、泣き叫んでいた。もう、マキウスどころか、誰の言葉もモニカに届かなかった。
ようやくモニカが落ち着いた時には、臨月が近かった。
モニカは何とかマキウスとの娘であるニコラを産んだが、出産後はニコラ共々部屋に閉じこもってしまった。
誰にも会わず、マキウスが雇った乳母のアマンテにさえ、ニコラを触れさせなかった。
そんな中、再び事件は起こった。
「ニコラが生まれて約2か月が経った頃、モニカは階段から落下しました」
たまたま、外出中だったマキウスが使用人から連絡を受けて屋敷に戻ると、階段の下には使用人に囲まれてモニカが倒れていた。
マキウスは使用人から話を聞いたが、モニカが階段から落ちる瞬間を見た者は、誰もいなかった。
これまで、ニコラと部屋に籠っていた筈のモニカが、なぜ部屋から出て階段から落ちたのかも謎のままだった。
事故だったのか、自殺だったのか、それは誰にもわからなかった。
モニカを国に帰そうかと、マキウスが悩んでいた時だった。
「モニカが倒れてから約1か月後、モニカは目を覚ましました。そうして、人が変わったようになりました。……それが今の貴方です」
モニカが目覚める事は難しいと、マキウスは医師から言われていた。
使用人達はそんなモニカに同情しつつも、もう乱暴をされないと安堵もしていたようだった。
「もしかして、私が使用人の皆さんから怖がられていたのも、『モニカ』が厳しく当たっていたからですか?」