ハージェント家の天使
 最初はマキウスの身体がビクリと震えたが、次第に慣れたのか、じっと身動ぎせずにそのまま座っていたのだった。
「そ、そうですか。ご満足して頂けたのなら、良かったです……」
 マキウスの身体に触れるかどうか、といった距離で、モニカはマキウスの耳に触れていた。
「はい。久々に癒されました!」

 次第に、マキウスの耳は身体とどう繋がっているのか、モニカは気になってきた。
 モニカはもっとよくマキウスの耳を見ようと、頭に顔を近づけたのだった。
「も、モニカ。身体が近いです!」
「そ、そうですか? でも、もう少しで、よく見えそうで……」
「ですが! さすがにこれ以上は、私も限界です……!」
 すると、モニカが触れていたマキウスの身体が後ろに傾いた。
「わっ!?」
「キャ!」
 2人の悲鳴が部屋に響いたのだった。

「うっ……」
 モニカが顔を上げると、胸の下にはマキウスの顔があった。
 どうやら、マキウスを押し倒すような形でベッドに倒れてしまったらしい。
「あ……!? す、すみません。マキウス様! 大丈夫ですか?」
 モニカはベッドに手をついて、起き上がりながら声を掛けた。
 マキウスはモニカの腕を掴むと、答えたのだった。
「私は大丈夫ですよ。貴方は?」
「私も大丈夫です。すみません。すぐに退きますね!」
 けれども、マキウスはモニカの腕を離してくれなかった。
「あの? マキウス様……?」

「もう少し、このままでいて下さい。貴方をこの角度から眺める機会は、なかなか無いので」

「貴方ばかり堪能して狡いです」とまで言われれば、モニカはじっと固まっている事しか出来無かった。
「あの、マキウス様……?」
 綺麗な肌、艶のある唇、フワフワの黒色の毛が生えた耳、さらりとベッドの上に流れる白色が強い灰色の髪。
 端整な顔立ちのマキウスの、どこまでも真っ直ぐに見つめてくる真摯的な紫色の瞳に、モニカはたじたじになった。
 緊張と羞恥で、溶けてしまいそうになったのだった。
(は、恥ずかしい……!)
 しばらくして、マキウスは顔の上に落ちてきたモニカの金髪を、そっと肩に掛けてくれたのだった。

「気が変わりました」
 マキウスはモニカを上に乗せたまま、身体を起こした。
「マキウス様?」
 マキウスの膝の上に座るような形で、モニカは首を傾げた。

「明日、婚姻届を提出しに、一緒に騎士団へ行きませんか?」
 モニカは目を丸く見開いたのだった。
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