ハージェント家の天使
「ちゃんと話して下さいね。あと、お姉さんって呼んで下さいね」
 言葉に詰まったマキウスを置いて、モニカはアマンテとアマンテが抱くニコラと共に部屋を出たのだった。

 モニカ達が出て行くと、マキウスとヴィオーラはしばらく無言でいた。
 やがて、ヴィオーラはため息をついたのだった。
「変わりはありませんか? マキウス」
「ええ。見ての通りです」
「不自由はしていませんか?」
「はい」
 そこで、2人の会話は終わってしまった。
 気まずい雰囲気の中、マキウスはモニカを呼びに行こうと立ちかけると、ヴィオーラに呼び止められたのだった。
「たまには、姉弟水入らず話しませんか」
「と、いいましても……」
「モニカさんやアマンテだけではなく、外では他の騎士や貴族の目もあります。なかなかゆっくり話せないでしょう」

 暗にお互いの立場を指しているのだと気づいたマキウスは、座り直すとため息をついたのだった。
「そうですね。ですが、私と貴女は、部下と上司であり、男爵と侯爵です。対等に話せる関係ではありません」
 マキウスの言葉に、ヴィオーラは悲しげに首を振った。
「けれども、それ以前に、私と貴女は姉弟です。父と母が亡くなった今となっては、唯一の家族」
「そうでしょう」と、テーブルの上で自らの手を強く握りしめたヴィオーラに促されて、マキウスは小さく頷いた。

「そもそも身分や階級が何です? 私達は家族です。姉である私が、弟の貴方を見舞って何か問題がありますか?」
「それは……」
「母親が違っても、母親同士が険悪な仲でも、私にとって貴方は大切な弟です! 実の姉弟のように、大切に想っています」
「姉上……」
 マキウスの口から無意識のうちに溢れた言葉に、本人が1番驚いていた。
「それに、貴方を地方の騎士団から呼んだのだって、弟だからというだけではありません。
 貴方には実力があるのに、地方の騎士団で一下級騎士をやっているのがもったいないと思ったからです」
 ヴィオーラは目を伏せた。

「私は騎士団で初の女性士官になりました。女性騎士は士官になる前に結婚して騎士を辞めるのが通例でしたからね。
 そんな私を、他の騎士や士官はなかなか認めてくれませんでした」
 マキウスはヴィオーラの話に目を見開いた。
< 61 / 166 >

この作品をシェア

pagetop