ハージェント家の天使
「ちょうど、同時期に母が亡くなった事もあって、心に余裕が無くなっていたようです。不意に寂しくなって、貴方と遊んだ日々が恋しくなりました」
 母が亡くなり、他の騎士には認められず、ヴィオーラは子供の頃の楽しかった記憶ーーマキウスと過ごした日々を思い出していた。
「貴方について調べさせたら、地方の騎士団で末端に近い下級騎士をしている事を知りました。けれども、騎士としての成績は優秀、入団時の試験も並み居る貴族や騎士の中で上位に入っていた。それなのに、身分が低いというだけで、ただの下級騎士。……もったいないと思いました。それで、私は貴方に声を掛けたのです」

 王都の騎士団では身分よりも実力を優先するようになってきたが、地方ではまだまだ実力よりも身分を優先している。
 マキウスに限らず、身分が低いというだけで実力に見合った仕事をしていない騎士は多くいる。

「私が率いる隊は、そうやって実力はあるのに身分や生まれに問題があるというだけで、仕事に恵まれない者達を集めています。勿論、女性騎士も」
 それ以外にも、ヴィオーラは騎士を続けたいという女性騎士を多く集めている。

 女性騎士の大半は騎士になっても、すぐに生家の命令で結婚して家庭に入り、子育てをする者がほとんどであった。
 結婚する際に、女性騎士は騎士を辞めなければならなかった。
 家庭と騎士の両立は出来ないからと、嫁ぎ先に辞めさせられる事がほとんどだった。

 そこでヴィオーラは、実力はあるのに、家の事情で結婚を選ばざるを得ない女性騎士に、少しでも騎士として実力を認めさせようとした。
 そうすれば、結婚後も騎士を続けられる可能性が高くなる。
 そんなヴィオーラが集めた女性騎士の中には、結婚と騎士の両立を許され、現在、出産や育児で休暇を取っている女性騎士も増えてきたらしい。

「丁度、私の副官を務めていた女性騎士が、出産と育児の為に長期間休む事になり、代わりの騎士を探していました。私の事を理解してくれて、私の右腕となる騎士を。それで、貴方を推薦しました」
「そこまで、私の実力を……」
「そうです。ですから、私は貴方が弟だからという理由だけで、優遇しているわけではないのです。貴方が私や立場に気兼ねする必要はありません」
 顔を伏せたマキウスの肩は震えていた。ヴィオーラはそんな弟に微笑んだ。
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